昭和14年、元新聞人にして戦前の政界の黒幕・小泉
策太郎(号は三申)の三回忌法要が執り行われ。その際、
岩波書店が追悼出版した『小泉三申全集』(全4巻)の
紹介がなされた。今回、ヤフオクに出品したのは、その
うちの第1巻で「織田信長,明智光秀」だが、発行された
のはそれから45年後の昭和59年に上梓された復刻本
である。定価は2700円+税の「極美本」である。私
20年以上前に、東京・神田駿河台下の高所会館で行わ
れた城北古書店で入手した完品である。限定少部数の復
刻本で今や入手困難の稀少本である!
【寸評紹介】
小泉策太郎は、戦前政界では古島一雄と並ぶ知る人ぞ
の黒幕で古今東西の歴史の分析力には長けていた。この
信長と光秀の表と裏の関係。定説を覆す鋭い分析は、当
時、珠玉名著とうたわれた。本書(復刻本)は、昭和末
の出版なので、今日的な人権配慮の表現に、わずかだが
修正された一文もあった・・・。
【著者・小泉策太郎の人生と本書の醍醐味】
元新聞記者にして、戦前の〝政界の黒幕〟大物政治家の
信長と光秀、秀吉の裏の裏まで読む政治分析はすこぶる踊
っている。さながら、読売新聞政治部長時代の渡辺恒雄が
盟友・中曽根康弘の政権時の官邸の裏読みをしているよう
だ。ハッキリ言って、本能寺の変はいきなり発生しない。
事件の背景に黒幕がいないワケがない。隠然たる影響力で
時代を動かすベクトルは、必ず働いている。その力関係を
読み解くのが歴史のおもしろさだ。
乱世を生き抜くためには、水面下での言論戦で勝つこと
が肝要だ。その典型的な例が、信長を「第六天魔王」とい
う悪の権化に仕立てた輩がいる。もとより、比叡山焼討ち
(3千人)や伊勢長島の焼討ち(2万人)は、明らかにジ
ェノサイドでやり過ぎた。しかし、叡山には高僧・名僧も
少なからずいたが、女色や大酒に溺れ、あまつさえ肉食に
走り妻帯までしていた破壊僧も数多存在していた。さらに
叡山の僧兵は読経よりも武芸に長じた武力集団であり、石
本願寺は下剋上を成り上がった戦国大名の域に達していた。
一方、信長はイエスズ会の宣教師・ルイス・フロイスを
庇護し、セミナリヨやコレジオという日本人宣教師を育成
する学校まで設立してあげた。京の逗留先の本能寺(日蓮
宗)以外にも、精進潔斎・殉教に生きる僧侶は庇護してい
る。信長が宗教の正邪を決定する基準は、宗教の本分に邁
進せず、僧侶として腐敗堕落しているかどうかにあった。
信長の長所は、特権階級を嫌悪していたことだ。楽市楽
座はその典型であろう。特権的な支配、座への銭を支払わ
ず商売できることから城下町の商業は発展し、百姓・町民
も品物や食料を安く買うことができた。だが、自由平等な
商業政策は、家康が天下を握ると廃止され昔の特権的な組
合支配するようになった。日本の火縄銃が、引き金をひく
だけで銃弾を発射できる鉄砲へと進化させたのも、信長が
庇護した近江国友衆の功績が大きかった。のちに、大名が
所有した鉄砲の数は、軽く1万梃を超えたがこれは当時の
ヨーロッパ全土の鉄砲の数を大きく凌いだ。他にも毛利水
軍を撃退した鋼鉄船の製造など、信長の進取の精神は時代
を進歩させる真骨頂であった。
おそらく、信長が本能寺で倒れなければ、日本は大英帝
国のように、朝鮮半島や中国大陸、東南アジアに侵攻し植
民地化したのではないかと私は思う! 話はいささか脱線
してしまったが、信長の本能寺での横死は天罰でも、自業
自得でもない。信長が理想とした社会を都合悪く思った、
守旧頑迷勢力と朝廷の古き権威を存続させようとした勢力
の策略があったと考えるのが自然であろう・・・。
【本の状態と発送方法】
本の状態は、東京・神田駿河台下にある古書会館で行わ
れた城北展示即売会で20年以上前に入手した「極上美品」
の逸品。本体と函はパラフィンで保護されている。発送は
ゆうパケットで当方が負担サービスいたします。